讃岐にも春がやってきました。桜に続いて、大串半島の杏(アンズ)、薬王寺の牡丹(ボタン)、岩田神社の藤(フジ)、直島の躑躅(ツツジ)、小豆島のオリーブなど、県内のあちこちで次々と花々が咲いていきます。さてそんな春の日におすすめは、番の州公園のツツジや川津町の花菖蒲園が美しい坂出市です。瀬戸大橋に美術館、おいしいものもたくさん登場します。
国府のまちから大橋のまちへ
香川県の海岸線をたどって、ほぼ真ん中に位置する坂出市。その昔、この地に国府が置かれ、886年(仁和2年)には菅原道真が讃岐国司となりました。市の南に位置する府中には、国庁跡が残されています。1156年(保元1年)には崇徳上皇がこの地に配流となり、五色台の白峯御陵にまつられています。高家神社や雲井御所跡など、周辺には上皇ゆかりの史跡が多く残されています。そうした歴史のまちは、入り浜式塩田が築かれ、塩の産地として有名になります。やがて、その塩田跡地や埋め立て地に大規模な工場が建ち並び、香川県最大の工業地帯となり、1988年(昭和63年)瀬戸大橋が開通し、大橋のまちとして全国にその名が知られるようになりました。
瀬戸大橋と仲良くしましょう!
瀬戸大橋が開通した年には、大橋のたもとで「瀬戸大橋博覧会」が開かれました。その跡地に完成したのが「瀬戸大橋記念公園」。瀬戸大橋のダイナミックな姿を間近に見る人気スポットです。
大橋と海の風景をながめる、日本庭園を散策する、芝生広場で寝ころぶ、それだけでもここちよい時間が過ぎていきますが、ぜひ立ち寄っていただきたいのが「瀬戸大橋記念館」。入場無料で、架橋工事の全容などを、模型や映像で分かりやすく知ることができます。臨場感あふれるブリッジシアターも無料で見ることができます。記念館の屋上からは、瀬戸大橋を渡る列車を間近に見ることができ、鉄道ファンにも喜ばれています。もちろん、瀬戸のながめも爽快ですので、忘れず上がってみましょう。
http://www.setoohhashi.com/
海辺に光る美術館
瀬戸大橋記念公園の近くに、2005年にオープンしたのが「東山魁夷せとうち美術館」。日本画の大家、東山魁夷画伯の祖父は坂出市櫃石(ひついし)島のご出身。また、瀬戸大橋のライトグレーの色は画伯のご提案によるものだそうです。そんな深いゆかりのあるこの地に、画伯の版画作品を県にご寄贈いただいたことから美術館が建てられることになりました。
小さな美術館ですが、それだけにじっくりと画伯の作品に向かい合うことができます。また、鑑賞後に階段を下りると、瀬戸の波を間近に見る喫茶コーナーもあります。おすすめは、開館を記念して生まれた「あまも」という特製まんじゅう。「あまも」とは海草の一種で、この上用まんじゅうには青のりが練り込まれ、上品な塩あんが中に入っています。櫃石島と瀬戸大橋、春の海をながめながらのお茶の時間は、特別にぜいたくな時間のように思えました。
http://www.pref.kagawa.jp/higashiyama/
万葉の島
瀬戸大橋記念公園の西、美術館の先には「沙弥島(しゃみじま)」があります。島と言っても今は陸続き、「瀬戸大橋記念公園球技場」の看板を入れば、車で行くことができます。ここは、柿本人麻呂(かきのもとひとまろ)が「万葉集」に、「玉藻よし 讃岐の国は 国柄か 見れども飽かぬ 神柄か・・・狭岑の島の 荒磯面に・・・」と詠んだ狭岑(さみね)の島。一周30分ほどの遊歩道も整備され、その起点には人麻呂の歌碑や陶板で作った49枚の歌碑が立てられており、ゆっくりと万葉の島を散策することができます。
ここには坂出市出身の作家・中河与一氏の「愛恋無限」の文学碑もあります。浜の松原にひっそりと立つ石碑は、庵治石で建立され、碑面は人間国宝・藤原啓氏の手による備前焼の陶板です。その石碑の前に広がる海は、おだやかに美しい瀬戸内海。驚くほど透明度が高く、清らかな波がサラサラと砂浜に打ち寄せます。瀬戸内海が美しさを取り戻しつつあることを実感できる浜辺です。夏は海水浴場としても人気がある沙弥島。また、浜や展望台からは、絵のように連なる瀬戸大橋の姿を眺めることができます。
毎年4月下旬(2007年は4月29日(日))には、ガイド付きで万葉のみちを歩く「万葉ウォーク」が開催されています。万葉集に登場するヨメナを入れた万葉粥の試食や希望者に古代米を使った万葉弁当の販売される予定です。
坂出市万葉会館 電話 0877-46-9154
坂出駅の観光案内所
沙弥島をはじめ、崇徳上皇の史跡コースや菅原道真の道コースなど、歴史の地を中心に坂出を散策する数々のコースがあります。そして、そのガイドをしてくれるのが「坂出観光ボランティア会」。この窓口ともなっているのが、坂出駅にある「坂出市観光案内所」。ここには、観光ガイドのツールもたくさんあり、観光マップはもちろん、うどんマップ、お宿マップもあります。
ショーケースの内外に展示されているのが、坂出市の特産品の数々。今回ご紹介する品々をはじめ伝統工芸品から食べ物まで、いろいろと展示されています。工芸品の中には今はもう新しく作ってはいただけない貴重な物も置いてあります。人気の竹炭もありました。季節によっては金時ミカン、金時ニンジン、金時イモ(冬は焼き芋もあり)もあります。
http://202.221.162.89/home/kankou/
塩づくりから生まれた名物
この観光案内所にもずらりと置いてある人気のスィートが「金時三昧(きんときざんまい)プリン」。かがわ県産品コンクールで、「ふるさと賞」を受賞した逸品で、坂出特産の真っ赤な色とおいしい味が特長の金時イモ、金時ミカン、金時ニンジンを素材に作られたプリンです。冷凍室に入れるとアイスクリーム感覚で味わえます。
そして、この「三金時プリン」や特製まんじゅう「あまも」を作っている「名物かまど」を訪ねました。県内に17の和洋菓子店を持つここの総本店は坂出市にあります。地元の素材を大切に使って、お菓子を作って行きたいというかまどさん。香川県産小麦「さぬきの夢2000」を使ったカステラも販売しています。しかし、何といってもここの名物は社名にもなっている“名物かまど”。これは、製塩のかまどをかたどったもので、讃岐の山のようにほっこりとかわいい形が愛らしく、飽きのこない甘さが忘れられません。
直営の菓子店は、江尻町の本店のほか、旅の途中にも立ち寄りやすい、坂出北インターチェンジ近くの瀬戸大橋店、坂出駅南口店もあります。
https://kamado.co.jp/
駅から5分のおすすめスポット
坂出駅の北口からJRの高架にそって西に向かえば、すぐに見えてくるのが「香風園」。明治時代の末に、資産家であった鎌田家の別邸として、飯野山(讃岐富士)や笠山などを借景に造られた池泉回遊式の日本庭園です。入園無料で、休憩所もあるので、気軽に立ち寄ってみましょう。香風園のすぐ西には、「鎌田共済会郷土博物館」があります。かつて鎌田家によって図書館として建てられた建物で、国の登録有形文化財に指定されています。古文書や出土品など、多数の資料を有し、常に300点から500点ほどを一般公開しています。なかでも興味深いのは、「坂出塩田の父」と呼ばれる久米栄左衛門(くめえいざえもん)の発明品の数々。ここも入館無料です。(ただし月曜・祝日・日曜の午後は休館。)
手放せない「だし醤油」
香風園の北側には、鎌(かま)と田のマークで知られる「鎌田醤油」があります。寛政元年(1789年)創業、218年もの歴史を誇る老舗です。小豆島や引田、香川県の醤油(しょうゆ)は味の良いことで知られていますが、その理由の一つは、良い塩の産地であること。良質な塩の産地といえば、ここ坂出が香川県では最も有名です。大規模な塩田がこの地に造られた江戸時代から、醤油づくりを続けてきた「鎌田醤油」。
この変わらぬ味に加え、常に目指すのが「今求められる味」。そうした「今求められる味」の代表が、鎌田の「だし醤油」。さぬきうどんにも、冷やっこにも、瀬戸の焼き魚にも、これでなければいけないというファンが多く、普通の醤油には戻れないという声も多く聞かれます。この「だし醤油」は、最優等の天然醸造醤油に、かつお節、さば節、昆布といった厳選された天然材料がブレンドされています。通常の濃口醤油より25%も減塩しているそうですが、深いうま味があり、料理のおいしさを十分に引き出してくれます。
ほかにも、減塩志向の方に「低塩だし醤油」、和風ノンオイルドレッシング「サラダ醤油」、鍋や酢の物にもおすすめ「ぽん酢醤油」、瀬戸の新鮮な魚を生かす「さしみ醤油」とあり、この5種類は「五色醤油」と呼ばれ、セットになって贈答用として喜ばれています。また、さぬきうどん用の醤油やうどんつゆも入った、さぬきうどんとのセットも人気です。これらは、容器が口栓付小型紙パックになっていて、ビン入りに比べずいぶん軽く、そのまま食卓に置いて使うことができるので、お土産にもおすすめです。
http://www.kamada-soy.co.jp
醤油を愛する遊び心
香風園の北側にある駐車場の奥にあるのが、「醤油画資料館」と「四谷シモン人形館・淡翁荘」。
まずは、商店街の方に入り口がある「醤油画資料館」へ。ここには、その名の通り醤油で描かれた世にも珍しい「醤油画」が展示されています。かつての醤油店の店内をめぐって、醤油画の歴史、醤油を愛する人々の遊び心にふれてみてください。
美と神秘の人形の館にようこそ
続いて「醤油画資料館」の隣にある「四谷シモン人形館・淡翁荘」。瀟洒(しょうしゃ)な洋館に入れば、そこは時代も世界も超えたような、大人のための耽美的な幻想世界。ここにしかない贅沢(ぜいたく)な時間が過ぎていきます。この淡翁荘は、昭和11年に建てられた、かつての鎌田家の居宅。しかし、今は人形を主としたドラマチックな舞台のように、人々を迎えています。この贅沢な館に住むことになったのは、人形作家・四谷シモン氏の16体の人形たち。豪華な応接間に、階段に納戸に、かつてのトイレに、人々がやってくるのを、じっと息をひそめて待っています。その場に立たなければ、受け取れない人形たちからのメッセージ、ゆっくりと訪ねてみませんか。
http://www.kamada.co.jp/simon/simon.html
レトロな商店街から大正浪漫の資料館へ
続いては、「醤油画資料館」の入り口がある、レトロな商店街を西に進みます。信号を渡り、さらに進めば右手に「地蔵餅」という小さな店があります。大きさも形も珍しく、なつかしい味のお餅です。その先、左手には、和紙貼りの上に柿渋を塗って作り上げる一閑張(いっかんばり)の「民芸城山(電話0877-46-4028)」があります。ここには、今では貴重になった舟箪笥(ふなだんす)の金具、舟金具の品々も置いてあります。季節の民芸品も心楽しい店内です。
民芸城山さんの角を左に曲がれば、突き当たりに、市民美術館や大橋記念図書館など、市の建物が集まる一画があります。ここに「坂出市郷土資料館」があります。この建物は、大正時代に建てられた学校建築で、今なお美しい姿を見せています。館内には、出土品や民具、市の歴史をたどるさまざまな収集品が展示されています。坂出市から出土されている世界でも貴重な石、美しい音を奏でるサヌカイトもあります。ここも入館は無料。
http://www.city.sakaide.kagawa.jp/sisetu/index.html
幸せ願う鯉(こい)のぼり
続いては、坂出駅の観光案内所で見つけた「手描き鯉のぼり」(香川県指定・伝統的工芸品)を作る三池さんを訪ねました。五月の空に元気よく泳ぐ“鯉のぼり”。その昔は、和紙に手描きで書かれていた時代があり、坂出は日本一の手描き鯉のぼりの産地でした。今ではナイロンプリントが主流になってしまいましたが、その中で、唯一、和紙による手描き鯉のぼりの技を受け継ぐのが三池さんです。
ウロコやエラや目玉など、さらさらと、まるで型押しをしたように描き上げる三池さん、これには、かなりの熟練の技が必要です。とはいっても、手描きですので、同じ物が一つとしてないというのも、この鯉のぼりの魅力なのです。今の暮らしに合わせ、小ぶりの物も多くあり、子どもさんの幸せを願うにふさわしい、ぬくもりを感じるお土産です。これなら、恋のぼり?として恋人にプレゼントしてもいいですね。坂出駅と栗林公園の商工奨励館で買い求めることができます。
http://www.shikoku.ne.jp/miike/
神々の遊ぶ谷に建つ国宝建築
今度は郊外へ足を伸ばし、歴史の宝を訪ねてみましょう。坂出市の東、五色台のふもと、神々が集い遊ぶ谷という神谷町には、本殿が国宝に指定されている「神谷(かんだに)神社」があります。この神社のはじまりは古く、太古に大岩を祭壇として、天津神(あまつかみ)をまつったと伝えられ、神社の裏には影向(ようごう)石と呼ばれる磐座(いわくら)が残されています。本殿の棟木には、建保7年(1219年)2月10日の墨書銘があり、鎌倉初期に建立されたことが確認されています。
三間社流れ造りの美しい本殿は、当初のままで現存し、建築年代の明らかな社殿としては国内最古のもの。幾たびの戦火をも逃れて、800年に近い歳月を変わらぬ姿で立つその姿は、感動に値します。いつもは朱塗りの門が閉じられていますが、前もって予約をすれば見学が可能です。
坂出市教育委員会 社会教育課 電話0877-44-5026
おいしい三金時
神谷神社から五色台のふもとを北上すれば、さぬき浜街道と呼ばれる県道161号線(高松坂出線)沿いに「はまかいどう松山産直店」があります。新鮮な野菜や果物などが店頭を飾るここでは、季節になれば、坂出特産の三金時、金時イモ、金時ミカン、金時ニンジンを手に入れることができます。金時三昧プリンや金時アイス、新発売の金時ミカンジャムや金時ミカンの缶詰も置いてある、三金時のメッカのような産直です。この三金時を少し詳しく紹介すると、昔は塩田であった砂地でミネラルたっぷりに育った甘いサツマイモが「金時イモ」。出荷量全国1位を誇る伝統野菜は「金時ニンジン」。そして、正式名は小原紅早生という坂出の小原さんが発見したとっても甘い「金時ミカン」です。
http://www.kw-ja.or.jp/sancyoku/data/hamakaido/index.html
塩の資料館
「はまかいどう松山産直店」から北に入れば、県道186号線(大屋冨築港宇多津線)沿いに、「坂出市塩業資料館」があります。ここには、讃岐の塩づくり、日本の塩づくり、塩とくらし、塩づくりのいろいろといったコーナーがあり、塩づくりの歴史と文化にふれることができます。実際の道具やリアルな模型、クイズや映像などで、塩づくりがどんどん身近になってきます。人が生きる上でなくてはならない塩、ぜひ一度学んでみましょう。
http://www.city.sakaide.kagawa.jp/local/engyou.html
世界最高水準の“日本の塩”、こだわりぬいた“坂出の塩”
この資料館の北には、実際に塩づくりを行っている「株式会社日本海水讃岐工場」があります。国内生産の約50%の塩を生産しているという企業です。小名浜、赤穂、そして、ここ讃岐に工場を持っています。この3つの工場で行われる塩のつくり方は、世界的にも高く安全性を評価されている“膜濃縮せんごう法”を採用しています。
この讃岐工場では、香川県ならではという「瀬讃の鹽(せさんのしお)」や「坂出の昔塩」なども作られています。これらは、昔ながらの塩田と同じ製法で、じっくりと時間と手間ひま掛けて作られたこだわりの塩。その昔の入り浜式塩田と同じ仕組みの「流下式濃縮板」を使い、少しずつ少しずつ塩分を濃縮させ、平釜でていねいに炊き上げます。こうして出来上がった「瀬讃の鹽」、そして、これを乾燥してべとつきを抑え使いやすくしたのが「坂出の昔塩」です。
http://www.nihonkaisui.co.jp/index.html
さかいで塩まつり
毎年春に開催される「さかいで塩まつり」。2007年は5月26日(土)。坂出駅前広場、商店街などを舞台に行われる予定です。久米流鉄砲隊のパフォーマンスや塩すべり台などの塩体験のための遊び場を計画しています。
坂出青年会議所 電話0877-46-8068