讃岐の冬は暖かいとはいえ、こたつの温もりがうれしいこの季節。香川県のあちこちにある、冬の日だまりのように心が温かくなるなつかしの町並みを訪ねてみませんか。香川県の東端、東かがわ市には、大切に守ってきた自慢の町並みを誇る港町があります。かつては、風待ちの港としても知られた「引田(ひけた)」です。そこで今回は、早春のひなまつりでも有名な「引田」のまちをご紹介します。
中世の城下町・豪商の家並み
東かがわ市引田は香川県の東の玄関口に位置し、その歴史は古く交通の要所として知られてきました。中世には引田城が築かれ、やがて商業が発展してにぎわいを見せ、江戸時代には醤油醸造や回船問屋などの豪商の屋敷が並びました。現在でも江戸から明治にかけての建物が残り、なつかしい風情を漂わせています。
この町を代表する建物が、「讃州井筒屋敷」。醤油や酒造業で古くから栄えてきた引田御三家の一つで、現在では引田の観光拠点として知られています。この井筒屋敷やなつかしの町並みを舞台に、町歩きのイベントなどが行われていますが、なかでも有名なのが2月下旬から3月上旬(2009年は2月27日~3月3日)にかけて行われる「引田ひなまつり」。家々にそれぞれ自慢の雛人形などが飾り付けられ、玄関や座敷を見学することができます。また雛人形づくりコーナーや茶会、市松行列やまち並みバザーなども開催され、引田駅前から町並み一帯は華やかににぎわいます。
NPO東かがわ市ニューツーリズム協会 電話 0879-23-8557
豪商の暮らし「讃州井筒屋敷」
JR引田駅から徒歩約5分、なつかしの町並みの拠点である「讃州井筒屋敷」があります。まずは母屋の見学。広々とした帳場、「橋」をテーマにしたという庭、風格のある座敷、凝った装飾の茶室など、元禄時代には関東までその名をとどろかせていたという醤油や酒の醸造で繁栄を極めた豪商の暮らしを垣間見ることができます。見学は有料ですが、お茶がついているので一休みしましょう。
ここは、またボランティアガイドの方の拠点ともなっていて、平日や土曜日は12時から15時。日曜日は10時から15時まで、希望者には無料で井筒屋敷のガイドをしてくれます。(事前予約が必要:「東かがわ市ニューツーリズム協会」にお問い合わせください。)
お屋敷ショップガイド
それでは、井筒屋敷のなかにあるショップをご案内しましょう。門をくぐって、右側が母屋、左側の一之蔵には「ごはんや醤(ひしお)」があります。民家のように落ち着いた雰囲気の店内で、地元の素材などを使った和食を楽しむことができます。ランチに一押しですが夜も予約をすれば対応してくれます。(電話 0879-33-3660水曜定休)
二之蔵にあるのは「アンティーク三宅」。年末には香川県ゆかりの品々、年明けからはおひな様関係の逸品が並ぶ予定。骨董品を買うのは不安という方のために、万一偽物であった場合は売値で買い取る保障付きだそうです。掛け軸、人形、器などなど掘り出し物が品良く並んでいます。(電話 0879-33-6280 水曜定休)
三之蔵には、まず一階に東かがわの“ええもん”がずらっとそろう「匠の物産館」があります。手袋や和三盆、醤油、海産物、銘菓などなど、お土産はここでしっかりチェックしましょう。(電話 0879-23-8550 水曜定休)
三之蔵の二階にも忘れず上がりましょう。ここには、「手袋工房」があります。皮のはぎれを使って、オリジナルキーホルダー作りやオリジナル手袋づくりの体験コーナー(有料・平日・土曜・団体は要予約)があり、ベテランの縫子さんの指導により世界で唯一つのマイ手袋が誕生します。また、さまざまな手袋のオーダーを受け付けてくれますが、これがしっくりと手になじんで最高!引田の思い出におすすめです。(予約電話(株)オオジー 0879-33-6890 水曜定休)
与之蔵は、イベントの際には体験コーナーなどになり、貸し館として利用されています。続いての五之蔵は「いろはのい」和柄がかわいい小物や洋服のお店やグリーンショップの「MOKA&NOVA」、珍しいカブトムシやクワガタの店「カブクワ やまと.com」(電話090-5270-2036火・木・土・日・祝日営業)。そして、四国はここだけというチワワ専門ブリーダーの店「ちわわ屋」があり、かわいい子犬の洋服も好評です。
(電話090-8287-5805日・祝日のみ営業) 讃州井筒屋敷は、水曜定休、10時~16時営業。
年末は31日のみ休み、1月1日から開いていますので、華やかな年始ムードあふれるお正月にもぜひお立ち寄りください。
周辺ガイド
讃州井筒屋敷周辺は、散策におすすめ。立派な長屋門が目を引く日下家の庄屋屋敷、漢方薬の調合販売をしていた松村家、海産物の販売をしていた泉家などの立派な商家の家並み、風情ある路地の風景などを見ることができます。また、井筒屋敷のすぐ近くにある昭和初期に建てられた郵便局のモダンな建物は、「カフェ・ヌーベルポスト」という喫茶店に生まれ変わり、ランチのカレーセットや午後のケーキセットが人気です。
(電話0879-33-6881 月~水が定休日)
ここ引田を含む東かがわ市一帯は、昔から手袋の産地として知られてきました。2008年11月現在、日本手袋工業組合に所属するだけでも手袋の企業が市内に64社あります。そのなかで、今回は2つの企業におじゃましました。
アメリカのデパートにも
最初に伺ったのは、引田の氏神様誉田八幡宮の近くにある「福田手袋株式会社」。大正2年に創業し、昭和31年に設立。官需向けの製品なども手がけ、現在は海外に生産拠点を持ち、東京市場に多くの製品を送り出しています。問屋さん、デパートなどが主な取引先で、アメリカのデパートとも取引があるそうです。企画から考え、最終的に決定されたデザインに従って縫製を行いますが、デザイン性と機能性の両方の要望をクリアーできるよう工夫を重ねているそうです。(電話 0879-33-3607)
ブライダル手袋日本一
続いては、引田の中心地から東、馬宿川沿いを上流にさかのぼった場所にある「株式会社オオジー」。日本で一番早くブライダル手袋を手がけ、現在でもこのシェアでは日本一の生産量を誇っています。ドレスの流行により手袋のデザインも変遷し、今は人気があったレースからオーガンジーやサテンタイプに移っているそうです。その繊細な縫製技術やデザインセンスを生かして、オーダーによる和柄の手袋も手がけていますが、この和柄の手袋は大手デパートでも大好評。外国の方がお土産に買い求めることも多いので、ビッグサイズも用意しているそうです。キャディさん用の手袋やすべり止め加工の手袋や靴下の販売、帽子やバックのオーダーも行う「株式会社オオジー」。特徴ある製品開発に、今日も頭を悩ませていますと語ってくれました。(電話 0879-33-2515)
手袋ギャラリー誕生
オオジーの代表・大字正数さんは、東かがわ手袋観光振興会の会長さんでもあります。次に、大字会長の案内で2008年11月にオープンしたばかりの「手袋ギャラリー」を訪ねました。讃州井筒屋敷のすぐ斜め前にあるギャラリーは、若いデザイナーの感性で手袋に親しんでもらおうと、昭和の手袋工場が再現されています。このアンティークな工場を舞台に、心ときめくさまざまなアートに出合うことができます。手袋が持つなつかしさや温かい雰囲気があふれています。
ここ引田は醤油の産地でもあります。海辺の引田は古代から塩づくりも行われ、良質の塩の産地であり醤油の生産に適していました。引田村での醤油の醸造は小豆島のそれとほぼ同時期に始まったといわれ、江戸時代の寛政末期から文化文政にかけて大いに発展しました。そこで、次は醤油の香りを訪ねてみました。
お醤油の革命「ソイソルト」
讃州井筒屋敷のすぐ北西、御幸橋のたもとに赤いベンガラが美しい国の登録有形文化財の建物があります。ここが、宝暦3年(1753年)創業の「かめびし屋」です。二百数十年という歴史の製法「むしろ麹法」を守り続けていることでも知られています。丹精込めて育てた麹を百年以上という杉桶に仕込み、二年、三年、ときには十年もじっくりと熟成させ、深い味わいの醤油を造っています。と思えば、醤油やもろみのアイスクリーム「ソイジェラート」や、なんとお醤油のフリーズドライという「ソイソルト」を生み出しました。お肉やサラダ、パスタなどにも手軽にふりかけて使え、「うすくち」や「オニオン&ニンニク」などの4種類があります。これは平成19年度かがわ県産品コンクールで大賞を受賞しています。
また、この「ソイソルト」とベルギー産のチョコレートが衝撃の出合いを果たし、「ソイショコラ」も誕生しました。本場フランスの三つ星レストランのシェフも絶賛したという、バレンタインにもおすすめの「ソイショコラ」です。「かめびし」さんには、ソイジェラートなどを味わえるお茶屋や、こだわりの醤油で楽しむうどん店「かめびし屋」(土日・祝日のみ営業)もあります。
電話:0879-33-2555 フリーダイヤル:0120-1753-25
醤油蔵のギャラリー
続いては、引田庁舎となつかしの家並みが続く引田のメインストリート本町通りに挟まれた一画にある「街かどギャラリー遊遊」さんを訪ねました。ここには、かつて醤油蔵がありましたが、今は美しく整えられ、庭を眺めながらお茶を楽しめるかわいいギャラリーも完成しました。ひな祭りには、手作りのおひな様も飾られ、大勢の方でにぎわう粋なお屋敷です。ここ「引田醤油」さんは、江戸時代に回船問屋から始まり明治時代に創業。昭和4年には引田町で始めての株式会社となりましたが、昭和25年同業者組合から大川醤油組合設立し、現在は原料の共同購入と製品の共同販売を行っています。戦前まで徳島県に支店を持っていたことから、徳島県にも多くの取引先があり、ここのさしみ醤油は徳島ラーメンにも使われ、大好評なのだそうです。醤油の販売店は、JR引田駅から高松方面に走った国道11号沿いにあります。 (電話 引田醤油0879-33-2565 ギャラリー0879-33-6833)
ハマチ養殖発祥の地
引田は、またハマチ養殖発祥の地として知られています。2008年はハマチ養殖80周年。この養殖を成功させた野網和三郎生誕100年の記念すべき年でした。明治41年(1908年)に引田村で網元の三男として生まれた野網和三郎は、漁師の暮らしの厳しさを身にしみて感じていました。その不安を少しでも取り除きたいと水産学校に進学、養殖の道をめざしました。当時は養殖といえば、淡水魚ばかり。海の魚を養殖すると言えば、笑い飛ばされた時代でしたが、卒業後の和三郎は安戸池に通い詰め、昭和3年(1928年)にハマチの養殖を世界で初めて成功させたのです。
ハマチがはねる安戸池釣り場
その安戸池は、現在、釣り場「フイッシュフック」として、大勢の釣り人を迎えています。ハマチ、カンパチ、ヒラマサ、タイなどの放流魚の海釣り体験ができ、しばしば大物がかかります。(定休日1月1日・2日 電話 0879-33-2800) 池のほとりにあるのは「体験学習館マーレリッコ」(入館100円)。養殖やハマチの勉強をするにもおすすめの施設で、学校の体験学習などに利用されています。2階からは安戸池の美しい風景も眺めることができ、ハマチのエサやり体験(200円)や貸しさおとタイ1匹がついた釣り体験(500円)もすることができます。(定休日は火曜日と年末年始 電話 0879-33-2929)
また地域産物展示販売施設「ワーサン」があります。1階は、新鮮なハマチや海産物、地域の土産物が並んでいます。2階は、「ワーサン亭」という食堂になっていて、土日限定でハマチの刺身定食や10月から年末までの出荷時期にはひけた鰤(ブリ)の刺身定食も味わえます。(定休日は火曜日と年末年始 電話 0879-33-2800)
エコで安心!ひけた鰤(ブリ)
ハマチ発祥の地で今、注目を集めるのは「ひけた鰤」。ブリは成長するにつれて名前が変わる出世魚で、ここでは、モジャコ、ツバス、ハマチ、そしてブリと呼ばれます。引田では、ハマチ養殖成功から80年の養殖技術を結集し、安全・安心で健康的に成育したブリを、特許庁から認定を受けた地域ブランド魚「ひけた鰤」として売り出しました。
引田の沖合6キロに、25m四方、深さも25mもあるという広大な生け簀をつくり、そこでハマチやブリを育てています。ここでは、海の環境がしっかりと守られ、まずエサはやりすぎない。また食べ残しのないように、海面に浮かぶエサを工夫しています。冬の漁場は一度、すべての魚を出荷して空にし、その期間は海苔を養殖して、海に残った栄養を吸収させます。また、海底の泥の奥まで酸素が行き渡るように、海の底を耕しています。
最近では「天然ものより味が良い」と評価をいただく「ひけた鰤」です。(問い合わせ 引田漁業協同組合 電話 0879-33-2528)
プリプリの刺身定食
続いては、「ひけた鰤」やハマチを味わうことができる引田のお店を紹介します。徳島県境に近い国道11号沿いには、活魚料理の「讃岐屋」があります。地元の新鮮な魚を食べさせてくれる店として有名で、県境を仕事で行き交うみなさんもよく立ち寄る味もボリュームも満足のお店です。ここでは、プリプリのハマチの刺身をいただくことができます(ひけた鰤の刺身は10月から年末まで)。わかめがたっぷりと入ったおみそ汁もおいしく、讃岐の海の幸を思う存分堪能できます。(定休日:12月31日 電話:0879-33-3001)
ごく旨ハマチづけ丼
今度は、再び本町通りの「桃山ひろせ鮮魚」を訪ねます。仕出しのお店は、その一つ東の通りに入口があり、2人から前日までの要予約で「ハマチのづけ丼」を味わうことができます。仕出しが本職で要望に応えられないこともあるのだそうですが、その味は絶品、その上、お座敷でゆっくりといただくことができます。「ハマチのづけ丼」は、京都で料理修行をしてきた本当は魚が苦手というご主人が、どうにかおいしく魚を食べたいと、工夫に工夫を重ねてあみだした料理。それだけに秘伝のたれに漬けたその味は、魚嫌いの若い方にもおすすめできる食べやすいもの。あっという間に器が空になってしまいました。最近は団体客の予約もあり、50人までOKです。(定休:月曜 電話:0879-33-3119)
瀬戸のちりめんと煮干し
海の幸に恵まれた引田には海産物のお店も幾つかあります。そのなかで、馬宿川の河口付近にある「濱浦海産」を訪ねました。引田の沖でとってきたカタクチイワシを、すぐに加工し、おいしい製品を送り出しています。成長により、シラス→チカ→カエリ→小羽→中羽→大羽(小羽からは煮干し)と変化し、釜でゆがいて乾かさないものがやわらかい「しらす」。ゆがいた後にカラカラになるまで干すと「煮干し」になり、長期保存が可能になります。地元の素材で大切に手作りした製品は、安心しておいしく食べることができます。電話での注文もOKですが、JAの大内ふれあい市や東京の「旬彩館」にも置いてあります。(電話 0879-33-3329)
本物・安心・健康
馬宿川を上流にさかのぼり河岸の東側にある「株式会社木村海産」を訪問しました。ここは、瀬戸内海を中心に水揚げされる「ちりめんじゃこ」の加工・販売を主な事業に昭和37年に創業。しかし、漁獲量の急激な減少に危機感を募らせ、いち早く海外に目を向けて、仕入れルートを開拓、また商品に付加価値をつけることに取り組みました。ちりめんじゃこは、小さな魚を一度に水揚げするので、こまかなゴミもたくさんついています。それを一つ一つのぞき安全な製品を送り出すのですが、髪の毛一本残さない「木村海産」の技術は日本一と評価されています。つまり、伝統ある本物の味を守りながら、近代設備による安心の品質管理を行い、そして、おいしさを損なわない減塩技術で健康志向の商品を生み出しているのです。カルシウムたっぷりの食べるイリコやふりかけも手がける「木村海産」の商品は、大手スーパーでの販売や給食関係でも使われています。箱入りになりますが、電話注文やお店でも販売が可能です。(電話 0879-33-3141)
究極のスイーツ
引田には、世界に誇る究極のスイーツがあります。和菓子洋菓子の材料にもなる和三盆という砂糖。江戸の昔から伝わる製法で磨きに磨き上げられた砂糖で、木枠に入れて可憐で美しい茶菓子にもなります。お正月やおひな祭りにも、ぜひ使っていただきたい和三盆は、馬宿川を渡って国道を東に進むとある「三谷製糖」さんにあります。文化元年(1804年)創業というここは、建物も道具も国の重要有形民俗文化財に指定されていて、その製法も200年間変わらないという貴重なものです。そのまろやかな口溶け、上品な甘さは、世界に誇る究極のスイーツといえるでしょう。有名デパートの展示会などでも引っ張りだこの和三盆は、高松空港や讃州井筒屋敷、旬彩館にもありますが、歴史ある店舗にも立ち寄ってみたいものです。(電話0879-33-2224)
もっと味わい深い引田の旅
讃州井筒屋敷やすぐ近くの讃州笠屋邸では、手作り体験のメニュー(有料)もいろいろと用意されています。例えば、「和三盆の型抜き体験」(要予約)やかめびしの醤油を使った「引田のおちらし飴づくり」、「うどん打ち体験」や「現代風着付け体験」もできます(原則2日前までに要予約)。「ハマチのづけ丼」や「かめびし屋のうどん」、「和三盆シフォンケーキ」などを味わえる「ガイドと歩く引田味めぐり」も大好評(土曜日実施で完全予約制)。春を待つ一日、引田の町で楽しんでみませんか。
問い合わせ・申し込み NPO東かがわ市ニューツーリズム協会 電話 0879-23-8557