第69回 和三盆糖
梶 剛(かじつよし)
NSC大阪校22期生
2005年ムーディ勝山と“勝山梶”結成
2008年ABCお笑い新人グランプリ新人賞
2010年ピン芸人“梶剛”として活動
出身地:香川県三豊市 1981年3月28日生まれ
江戸時代から続く伝統のお砂糖「和三盆糖」。
その味は香川県東部の「土」と先人たちの砂糖づくりの「研究」と、伝統を守る「人」によって生み出されています。東かがわ市の三谷製糖羽根さぬき本舗にやってきました。
-
江戸時代に8代将軍徳川吉宗の命ではじまった和三盆糖の研究
和三盆糖が作られているのは香川県の中でも東部の限られた地域。
「江戸時代中期に8代将軍徳川吉宗が糖業を奨励したことを受けて、5代高松藩主松平頼恭(よりたか)が医者の池田玄丈(いけだげんじょう)に砂糖作りを研究させたのがはじまりです」
と三谷製糖羽根さぬき本舗の三谷さんが教えてくれました。 -
高松藩は徳川家の親藩だったため、何がなんでも砂糖づくりを成功させなくてはならない状況に置かれていました。
-
和三盆の材料であるサトウキビは、香川県東部で栽培されています。
江戸時代は砂糖といえば薩摩(鹿児島)の黒砂糖が主流でした。
当時は甘いものが無い時代なので、甘ければ甘いほど、そして結晶が強くて(硬くて)クセのある方が価値がありました。サトウキビの苗は薩摩藩から伝わりましたが、土も気候も違う高松藩では甘さの柔らかい、結晶の柔らかい黒砂糖しかできず、売りものにならなかったのです。 -
その黒砂糖をどうしたら売れるものにできるかと研究したのが、池田玄丈とその弟子たちです。
研究の末、黒砂糖から糖蜜を抜いて、発酵させて、白い砂糖を作り出すことに成功しました。
「鹿児島から伝わった苗は、本来のサトウキビには育ちませんでしたが、香川の風土にあった形で生まれ変わったんですね」と梶さんも興味津々の様子。 -
サトウキビの収穫は12月
サトウキビというと夏のイメージがありますが、収穫は12月の霜がおりる前に刈り取ります。
夏に大きく育ったサトウキビは、秋以降には肥料分が抜けるように管理し、冬に向けて成熟させます。成熟させることによって、よりおいしい和三盆糖ができるのです。 -
収穫したサトウキビは「しめ車」で2回挽いてしぼり汁を取り出します。
しぼりすぎると外側の皮から雑味が出て、味が落ちてしまうので、サトウキビにまだ汁が残る程度にしています。
「サトウキビに汁が残っていて、もったいない気もしますね」と梶さん。
「歩留まりを考えるとおいしいものができないんですよ」
昔ながらの製法はサトウキビのしぼり方から始まると三谷さんは教えてくれました。 -
アク取りが味わいを左右する白下糖(しろしたとう)づくり
しぼったサトウキビの汁は釜で煮詰めていきます。煮詰めてアクが浮き上がってくると、「けんど(ふるい)」でアクを取ります。
-
アクを取り切ることが重要で、和三盆糖の「口に残らない、後味のよさ」につながります。
アクは取るけれど、アクと糖汁の間の旨味は味に深みが出るので糖汁に戻します。 -
煮つめた汁を素焼きのカメに入れて結晶化させたものが、白下糖(しろしたとう)です。
「アクをどれだけ取れるかが職人さんの技術なんですね」と梶さんは熱心に学んでいました。 -
分蜜と発酵で和三盆糖に仕上げる
次は白下糖から糖蜜を抜く「分蜜」の作業です。
白下糖は、麻と綿の2枚の布に包んで「押し船」に入れて、石の重みで糖蜜を抜きます。
「しぼるためのこの石は何kgあるんですか?」と押し船にかかる石の大きさに驚く梶さん。
石は1つ50kgほどあり、糖蜜の出具合をみながら4つ、5つと増やして調整していきます。 -
一昼夜かけてしっかりと糖蜜を抜いた後、白下糖を取り出して、台の上で研(と)ぎます。
「和三盆糖の結晶はいびつな形で蜜が溜まっていますが、研ぐと結晶がすりつぶされて糖蜜が抜けやすくなるんです」
糖蜜を抜く作業と研ぎの作業を5回繰り返します。 -
5回繰り返すうちに、この蔵に住み着いた酵母菌の力で発酵します。
「最後にはワインのような香りがするんですよ」と三谷さん。乾かすとワインのような香りは飛んで和三盆糖の旨味が生まれます。 -
一代一代が和三盆糖のおいしさを研究
「きれいですね、和三盆糖の魅力は、見た目がかわいいことですね。食べるのがもったないくらい」
盛りつけられた季節の花の和三盆糖を見て、思わず顔がほころぶ梶さん。一つを手に取りいただきました。「やさしい甘さで、さらっと口の中で溶けますね。上品な甘さの中にコクを感じます」
「和三盆糖はお抹茶のお菓子としてはもちろん、コーヒーや紅茶にもよく合います」と三谷さん。煮物やジャムなどの料理に使うと、素材の持ち味を引き出してくれるそうです。 -
和三盆糖は江戸時代に作り方が確立しましたが、時代によって人の味覚は変わってきます。
「同じものを作っていたら、味が落ちたと言われるんです。もっとおいしいものをつくりたいと一代一代が工夫することにより、味がいつまでも変わらないねと言ってもらえます」
守るところは守り、新しくするところは新しくする、それが今の和三盆糖の味を作り上げています。
「変わらない美味しさだねと言われるために、日々工夫しているんですね」と梶さんも納得。
香川県東部で栽培されるサトウキビ、先人たちの知恵、昔ながらの作り方、そしてそれを引き継ぐ三谷さんたちがいて、現代もおいしい和三盆が味わうことができます。
まさに奇跡のような和三盆の物語に感動した梶さんでした。