第73回 張子虎
梶 剛(かじつよし)
NSC大阪校22期生
2005年ムーディ勝山と“勝山梶”結成
2008年ABCお笑い新人グランプリ新人賞
2010年ピン芸人“梶剛”として活動
出身地:香川県三豊市 1981年3月28日生まれ
香川県の節句の飾り物として親しまれている「張子虎」。香川県では子どもの成長を願い、古くから張子虎が作られてきました。
梶さんは張子虎を制作する、香川県三豊市の田井民芸を訪れました。
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子どもの健やかな成長を願って飾られる張子虎
香川県三豊市には、男の子が家に生まれると健やかなな成長を願って張子虎を家に飾る風習があります。三豊市生まれの梶さんは、子どもの頃から家に張子虎が飾られていて、慣れ親しんできました。
「全国的には5月5日の端午の節句に飾りますが、三豊市では旧8月1日に『馬絶句』(うまぜっく)として飾っています」と田井民芸の田井艶子(たい つやこ)さんが教えてくれました。 -
張子虎は江戸後期に大阪から香川県に伝わったといわれています。昔は張子虎を制作する人形屋が県内に7~8軒もありました。
田井民芸は明治のはじめに創業しました。もともと市松人形や節句の飾り人形など色んな人形を制作していましたが、時代の流れとともに張子虎に特化。田井さんは田井民芸の5代目で、50年以上作り続けています。 -
代々が工夫し、張子虎のバリエーションが広がる
田井民芸の工房には様々な張子虎が並んでいます。昔からの作り方を守りながら、その代、その代で工夫を凝らしてきました。
「3代目のときには小さいものは12cmほど、大きいものは50cmほどのものがありましたが、私の代でバリエーションを増やしていきました」
5代目の田井さんは、手の中にすっぽり入ってしまうほどの小さいものや、子どもが乗れる1m以上の大きいものも制作しています。特大サイズは双子の子どもが一緒に乗ることができるのだそう。他にも、ユニークなポーズの張子虎も制作しています。 -
「古文書仕立て」は先人の文字を活かした作品
新作は「古文書仕立て(こぶんしょしたて)」の張子虎。
通常は黄色に縞模様が描かれる張子虎ですが、古文書仕立ては古い和紙をそのままに仕上げています。
「江戸後期から明治時代の古い帳簿の紙を使っています。帳簿の文字が面白いと思い、それを虎の模様に活かしてみました。昔の人の息吹が感じられるでしょう」と田井さん。
梶さんも「風格がありますね。現代のインテリアにも合いそう」と関心を寄せていました。 -
張子虎の製造工程
田井さんが張子虎を制作する工房を案内してくれました。
張子虎は木型に和紙を貼り重ねて形を作ることから始まります。
江戸や明治時代の和紙と現代の半紙などをあわせて、ほどよい強度に調整し、のりを付けて木型に貼ります。虎の大きさにもよりますが、10~20枚の和紙を重ねます。70、80年以上も使っている古い木型もあるのだそう。
和紙を乾燥させて木型から外し、虎の形に組み立てます。 -
次に和紙の上に「胡粉(ごふん)」を塗ります。
胡粉とは海のカキの貝殻をパウダー状にしたもの。接着剤の役目をする「にかわ」と混ぜて使います。胡粉を塗った張子虎は真っ白な状態。胡粉でコーティングすることにより、強度も増します。 -
最後に仕上げの色付です。
まずはベースとなる黄色い顔料を塗ります。続いて、虎の模様を刷毛と筆で描きます。「油煙(ゆえん)」という炭のような黒い顔料で模様にぼかしを施しています。
「だんだん虎っぽくなってきましたね」と田井さんの作業に見入る梶さん。
「最初から最後まで手作業で描いています」と田井さん。
一つ一つ手作業で描かれる張子虎に、梶さんは温かみややさしさを感じ、感動していました。 -
絵付け体験
田井民芸では張子虎の絵付け体験を行っています(予約制)。
「好きな色、好きな模様で自由に、自分の思いを込めて描いてみてください」
田井さんにすすめられて、梶さんも張子虎の絵付けにチャレンジ。「難しいなぁ」と慎重に筆を入れていく梶さん。 -
模様を描き、顔を描いて、仕上げにヒゲをつけて完成。
「世界に一つだけの虎ができました」と梶さんは満足そう。大きな口が特徴の、悪いものも吹き飛ばしてくれそうな勇ましい虎になりました。
※絵付け体験では、体の色付から体験者が行いますが、撮影のために事前に済ませています。 -
子どもの頃から張子虎を身近に感じてきましたが、改めて張子虎の作り方や田井さんの思いにふれた梶さん。
張子虎は現在、全国から注文がきています。田井民芸のオリジナルの色だけでなく、違った色の虎を相談されることもあるそう。それが新しい虎のアイデアにつながっていると田井さんは言います。
「これからも子どもから大人まで多くの人に愛される張子虎を作り続けていきたい」と田井さんは和やかな笑顔で語ってくれました。
次回のLOVEさぬきさんもお楽しみに。